湯の川・熱帯植物園の「サル山温泉」物語

111222M01.JPG湯の川の温泉街の一角に、「サル山温泉」が人気の函館市熱帯植物園があります。

屋外の運動場をのびのびと走りまわるニホンザルたちは、現在約90頭。冬の間は温泉が入れられ、お湯につかってのんびりくつろぐ姿が話題を集めています。

知る人ぞ知る函館の人気スポット、熱帯植物園のサル山について、園長(取材時)の坂井正治さんの解説をお届けしましょう。これは、毎日サル山で流れる園内放送の原稿をもとにしたもの。サルたちの食事や生活、温泉の入り方、面白芸など、毎日温かいまなざしで見守る園長ならではの貴重な話がいっぱいです。



◆サル山ができたのは、開園当初の40年前

111222M02.JPG函館市熱帯植物園の園長、坂井正治です。当園の一番人気、サル山のサルたちの生態をよく知っていただくために、これから解説いたします。サルたちを眺めながら、どうぞお楽しみください。

ここの植物園が完成したのは、昭和45年(1970年)の7月でした。その翌年の10月、お客様をもっと楽しませようと、このサル山が造られました。そして、本州から20頭のニホンザルが連れてこられたのが、現在のサル山のスタートでした。そこには、函太郎というボスや奥さんの巴さん、後のボスとなる函助がいました。現在ここにいるサルたちは、そのサルたちの子孫です。

まずは、このサル山のボスの話からいたしましょう。サル山が造られた頃のボスは「函太郎」でした。函太郎は昭和46~49年の4年間、ボスとしてサル山を支配しました。函太郎は、当時人間の年齢でいえば18歳の巴さんと結婚しました。そして、何頭かの子ザルに恵まれました。
111222M03.JPG函太郎が4年後に死んだ後、ボスになったのは「函助」でした。函助は先代の函太郎と同様、喧嘩の仲裁、子ザルのお世話、めすの毛繕い等をしてあげて、多くのサルの信頼を得ていました。餌を独り占めすることなく、皆が食べ終わるのをじっと待っているような我慢強いサルでした。

函助は昭和49年~平成11年の、実に25年間もサル山のボスとして君臨、平成11年2月16日に高齢のために死亡しました。私がこの園に来たのは平成15年ですから、函助に会うことはありませんでしたが、当時の新聞記事によると、推定35歳、人間の年齢で言えば約100歳。威張り散らさず、面倒見の良さで仲間の信頼を築き、ボスザルのまま生涯を終えたそうです。函助は水を怖がり、名物の温泉には遂に入りませんでしたが、飼育員が不用意に頭等に触れると猛然と怒るなど、威厳のあったサルだったと言われています。函助が死んだ日はサル山は静まり返り、ボスの死を悼んだそうです。



◆メスザルのボス、巴さんの個性豊かな子どもたち

111222M04.JPG一方、メスザルのボスは何と言っても函太郎の奥さんの巴さんで、昭和42年に横浜で生まれ、平成18年12月、推定120歳で死亡するまでの36年間、サル山の姐御として君臨しました。巴さんも後年は「巴ばあさん」と呼ばれて親しまれました。

現在、サル山にものすごいメタボのメスザルが1頭いますが、それは巴ばあさんの娘で、通称「娘」と呼ばれてきました。現在では体格も顔も巴ばあさんにそっくりになりましたので、「二代目巴ばあさん」と呼ぶ人もいます。メスの中で一番体格がよく太っています。

気性が激しい上にずるさもあり、他のサルが手にした餌までも取って食べてしまうほど食い意地が張っています。一度怒ったらすぐ噛みつき、なかなか離さない執拗さもあります。そのために噛み殺された子ザルも何頭かいました。他のオスも、恐れてちょっかいも出しません。餌を見せても絶対人間のそばに寄って来ない等、警戒心も強い姐御ザルです(左・下の写真。2015年11月に老衰で死亡)。


111222M05.JPG巴ばあさんには、ほかに強い三兄弟の子どもがいました。長男は無類の暴れん坊で、若い時に他のサルを追い掛け回しているうちにコンクリートの壁に頭を打ちつけて、事故死してしまいました。

三男坊は、平成22年3月に原因不明で病死してしまいました。死ぬ数日前から食欲もなく、体調を崩していたようでした。体重は15キロ以上もある大きなサルでしたが、優しさのある気性の良いサルで、その死はみなさんから惜しまれました。

一際体が大きくて力の強い次男坊は、腕力ナンバーワンで毛並みも美しい。我先に餌を取るし、身内以外の喧嘩に対しては知らん顔をします。若い時はけっこう乱暴者でしたが、最近は歳なのか少しおとなしくなったと思っていたら、平成23年11月に衰弱死してしまいました。人間なら中年という年齢でした。他のサルたちに対して思いやりがなく、自分勝手な行動をとるので仲間の信頼がなく、ボスにはなりきれませんでした。温泉が大好きで、朝から晩まで入っていました。



◆平成23年は4頭の赤ちゃんザルが誕生

111222M06.JPG最初は20頭からスタートしましたが、年々頭数が増えて、平成9年には最高の132頭までになりました。施設の規模からいうと30頭が適正な頭数で、実に4倍以上の数となってしまいました。平成14年には韓国の動物園に40頭が贈られ、94頭まで減りました。

その後、また少しずつ増えましたので、平成15年からメスに避妊手術をすることになりました。避妊のホルモン剤の効果は3年間しかありませんので、手術は平成18年、21年にも行われました。サルの発情期は10月頃から始まりますから、手術は京都大学の専門家の手によって、9月ごろから約3日間の予定で実施されます。

しかし、避妊の効果には個体差もあるのか、数匹のメスは妊娠し、出産することもあります。平成21年春には、11頭の赤ちゃんザルが生まれました。中には大変珍しいことに双子の赤ちゃんもありました。1頭の母ザルが2頭の子ザルを育てるのは大変らしく、1カ月も過ぎた頃、身内のメスザルが片方の子ザルを育てるようになりましたが、それがうまく行かず、やがて衰弱して死んでしまいました。


そんなこともあって、平成21年は当初11頭いた赤ちゃんザルが、年を越したのは6頭だけとなりました。
平成22年は6頭、平成23年は4頭の赤ちゃんザルが育っています。



◆サルたちの食事はバラエティ満点

111222M10.JPG食事は一日2回です。サル山には高い見張り台があって、必ず4~5頭の見張り役のサルがいて、餌を入れたバケツを持った飼育員を発見すると、キャッキャッと見張り台の上で跳び跳ねて騒ぎます。すると、下にいるサルたちも一斉に「ワーッ」と声を出して叫びます。

朝食はジャガイモとリンゴ、それに栄養食品のモンキービット(右)が中心です。パンや米麺(左)があれば与えます。午後の食事は、パンを中心に与えています。季節によっても食事の内容が変わり、夏にはニンジン、秋にはカボチャ等が多くなります。時々、米穀店から屑米をいただくことがあります。そのまま1粒ずつ指でつまんだり、舌に貼りつけたり、唾液で濡らした手に貼りつけたり、食べ方はサルによって異なります。

リンゴやジャガイモ等皮がある食べ物は、最初、前歯できれいに皮をむいて食べます。やがてお腹がすくと、先にむいた皮も食べます。翌朝まで皮が残っている場合は、与え過ぎということが分かります。


111222M09.JPGパイナップルやバナナ等は大好物で、皮まで食べてしまいます。ゴボウを与えた時、水場で洗ってから食べました。きれい好きな面もあるようです。絶対食べないのは、キノコです。においがいやなのでしょうか。大根やネギなど辛味のある物も好みません。辛党ではないようです。食パンより、甘い味のついた菓子パンを大変好みます。サルはどうやら甘党のようです。

強いサルは、食べ物を両手に持ちながら自分の前にも確保します。強いサルの餌を、他のサルは絶対に横取りしません。後の仕返しが怖いからです。弱いサルが偶然にも美味しい餌を手にすることがあります。それを見つけた強いサルとその仲間は、走って弱いサルのそばに来ます。すると、弱いサルはせっかく手にした美味しい餌を放り出して逃げてしまい、強いサルは悠々と美味しい餌を横取りして食べます。そういうことが日常繰り返されるので、強いサルは体格も良くなり毛並みも美しくなります。しかし、最後にはお腹が大きくせり出して、メタボのサルになってしまいます。



◆餌を求めて、芸を覚えたサルたちも

111222M11.JPGお客さんがサルに餌を投げ与えようとすると、両手をパチパチさせて「頂戴」をするサルが平成20年頃に現れました。その仕草が可愛らしかったので、お客さんはそのメスザルに餌を多く投げ与え、それを見ていた近くのサルも真似をして手をパチパチするようになりました。文字通り猿真似です。今では3頭程のサルがパチパチをします。中には、片手を体に打ちつけて「頂戴」するサルもいます。 

若いサルの中に、池のそばに立っている遊び木から温泉に飛び込むサルが4~5頭います。中には飛び込んだ後、2メートル程潜水するサルもいます。中年や年老いたサルはそういうことはしませんから、若者の特権として若さをアピールしているのかも知れません。

最近、餌欲しさに後ろ向きに1回転宙返りする、つまりバク転をするサルが現れました。早く仲間が猿真似して、バク転ができるサルが増えると面白いですね。



◆サルの温泉は12月からゴールデンウィークまで

111222M12.JPGニホンザルの北限は青森県だと言われていて、元々暖かい地方で暮らしていました。今は札幌をはじめ、道内のあちこちの動物園で飼育されていますが、北海道の自然界には存在しないサルなのです。

そんなわけで、幸い温泉が湧き出していたから、サル山に温泉浴槽を作りました。今は12~4月、特別のお情けで5月のコールデンウイークまで延長しています。函館の温泉に浸かっているサルは全国的に有名になり、韓国のテレビ局が取材に来たことがありますし、英米からのお客さんが「テレビで見たとおりだ」と喜んだこともありました。

サルは元々、水は嫌いです。しかし、ここの植物園のように温泉施設があると、様子はがらりと変わります。サルたちは温泉のよさを知っていて、12月になるのを楽しみに待っています。温泉が浴槽に注がれると、湯に手を入れて湯加減をみます。湯温30度台ではまだぬるいらしくて入りません。40度(人間でいえば中温)以上になると、やっと入ります。ここサル山の温泉は、41~42度に保っています。


111222M13.JPGサルも人間と同様、風呂好きと風呂嫌いがあるようで、嫌いなサルは決して温泉に入りません。反対に風呂好きなサルは、朝から晩まで出たり入ったりを繰り返しています。温泉好きは、全体の8割はいます。12月に初めてサルたちが入ると、お湯は茶色に変色します。それだけ体が汚れていたのでしょう。温泉に入ると体がきれいになるほか、効能によれば神経痛や皮膚病にも効果があるというので、健康維持に貢献していると言えます。

反対に、温泉に入り過ぎると皮膚が夏到来と錯覚を起こして、冬毛が抜けてしまうというリスクがあります。寒い冬の間に冬毛がなくなって、裸に同然になるサルも出てきて、お客さんは「病気なのではないか」と心配しますが、温泉をやめるとやがて元どおりに毛が生えてきます。温泉から上がるとサルたちは体を寄せ合って体を温め、毛を乾かします。しかし、毛がなくなってしまったサルは寒さに耐え切れずに、夜間でもこっそり温泉につかって体を温めています。毛が抜けているサルほど、温泉によく入っていたということになります。 



◆夜は地下の生活房で、ひと塊りになって睡眠

111222M14.JPG暗くなると、サルたちは地下の生活房に入ります。そこは広いコンクリート製の大広間になっていて、地上付近に鉄格子付きの窓が2個あるだけです。そこで親戚同士が集まって、ひと塊りになって眠ります。寒い時は互いに体を寄せ合います。強いサルの周りを家来のサルが取り囲みますから、強いサルは全然寒さ知らずのようです。

生活房には暖房設備がありませんから、温泉から上がったサルたちは互いに身を寄せ合って毛を乾かすようです。朝、生活房の部屋で食事をもらうと、口の中に食べ物をいっぱい詰め込んで、すぐ温泉めがけて走っていくサルもいます。

サル山にはトイレもありません。日中は外の遊び場で、夜間は生活房の中で用を足します。サルは人間のようにトイレを1箇所に決めるという本能はないらしく、生活房でも外の遊び場でも、所かまわずどこへでも排泄します。中には温泉の中でもやってしまうサルがいて、飼育員を困らせてしまいます。



◆サルの喧嘩、サルの不幸

111222M15.JPGサルは本来、ボスを中心とした母系社会です。しっかりしたボスがいれば、喧嘩の仲裁をして、怪我するサルや死に至るサルはいないはずです。しかし、時には咬まれた傷跡を残して死んでいるサルもいます。現在は大体3グループに別れていますが、グループ同士の仲は決して良好とはいえません。上下関係もあります。気にくわないことがあるとすぐに喧嘩になります。いち早く逃げてしまえば怪我することはありませんが、逃げ遅れると大変なことになる場合もあります。

外傷がないのにコロリと死んでいるサルもいます。そういうサルは冬に多いので、寒さに耐え切れなかったのか、または風邪をひいたのか。もちろん、老衰ということもあります。死ぬと獣医に報告して、死因を調査・判定することにしています。最近では、平成19年度は12頭、20年度は5頭、21年度は10頭のサルが死亡しています。写真を撮影した後、祭壇に安置してロウソクと線香、生花と好物であった食べ物等を供えて、従業員で手を合わせます。その後、ペット霊園で火葬にして共同墓地に埋葬します。



◆毎日の世話は、清掃と食事の準備

111222M16.JPG毎朝、2名の飼育員が生活房と外の遊び場の清掃をします。消防自動車と同じホースを使用して、まず排泄物を勢いよく洗い流します。その後、床や壁を消毒して清潔にします。

清掃活動が終わると、すぐ朝の食事です。午前9時頃、生活房の中ではジャガイモやモンキービット等を与え、外の遊び場ではパンを与えます。午後からの食事は、3時ごろにパンや野菜等を遊び場で与えます。夕方には、翌朝の餌の準備をします。

サルは牙を研ぐために木をよくかじります。そのためにサル山の遊び場には、常時2本の遊び木を立てています。サルたちは、遊び木の地上30~40センチ付近を好んでかじります。同じ所を順番に次々とかじりますから、直径15センチ程の遊び木は約1~2カ月で倒されてしまいます。すると、飼育員は土台の筒に合わせて樹木の根元を削り、新しい遊び木を立てなければなりません。


111222M17.JPGサル山の遊び場に、ぶら下げたプラスチックの容器の中に好物の乾燥米麺を入れています(上)。容器の下につけているハンドルを左右に振ると、わずかずつ米麺の屑が落ちてきます。その米麺は1日でほとんどなくなるので、それも補充してあげなければなりません。温泉の近くの容器には大豆を(右)、鎖にぶら下げた籠にはリンゴを入れて、頭を使って取り出すようにしています。

サルたちがお腹をすかせては可愛そうだと、多くの方の善意が寄せられています。たとえば、ジャガイモ等の農産物は池田農園(七飯町)、本宿(石川町)、大国(昭和町)、函館青果市場(西桔梗町)、葉野菜は中西商店(湯川町)、パンはポスフール(的場町)、シロクマ北海食品(柏木町)、米麺は中新製麺(上湯川町)、リンゴは山内果樹園(七飯町)、トトロの里(七飯町)、宮田果樹園(七飯町)、村瀬果樹園(七飯町)等。これらの皆さまのご協力によって、サルたちの食事は豊富になり、健康が維持されており、ありがたいことです。

以上で解説を終わります。ぜひ一度会いにお越しください。

 

111222M19.JPG函館市熱帯植物園 はこぶら記事
函館市湯川町3-1-15 0138-57-7833
・市電「湯の川」電停より徒歩15分
・JR函館駅より函館バスで「熱帯植物園前」下車
開園時間
(11~3月)9時30分~16時30分 ※12/29(木)~1/1(日)は休園
(4~10月)9時30分~18時

入園料 
一般300円、小中学生100円

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※原稿協力/坂井正治(2013年3月で園長を退任)、
まとめ・写真/編集室M 
2011/12/18取材、12/28公開、2016/1/4更新

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