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あなたのテーマでディープな函館 「写真・アート」

第2回ハコトリ、アートと空間の幸福な競演

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函館の古い街並を舞台にした、3年に一度の美術展「ハコダテトリエンナーレ」が、2012年9月に開催されました。

作品展示のための場ではない普通の生活の場、それも函館ならではの歴史が滲み出る建物を使用して行われたアートフェスティバル。ふだん観光では見ることのない建物内で、10名の作家による展示が繰り広げられました。古き街の日常生活との融合を図る、難しい表現への挑戦、そして、見る側にとっては決して美術館などでは体験できない、稀有な背景での鑑賞。それは、函館らしい文化の礎があったからできたイベントでした。

約1カ月の間、アートに染まった3会場と、10の展示を振り返ります。

(旧大黒湯で行われた、手廻しオルガンのパフォーマンス)


◆会場1「旧大黒湯」 ~シャワーや蛇口、浴槽などが立体的な背景を演出

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大正時代に建てられた銭湯・大黒湯。当時の建築技術を誇示するかのような大きな天窓から注ぐ光が、洗い場全体を柔らかく覆い、壁は白のタイル。これだけの環境が整えば作家さんの展示も容易なのではないかと思いましたが、意外なことに大変苦心したようです。

それは、壁に取り付けられたシャワーや蛇口、浴槽などが平面展示を許さない背景となったから。そのため、本来平面的に展示する作品を、立体的な表現となるように展示設計しなければならなかったのです。ですが、これがインスタレーション(架設展示)の醍醐味。

【左】中根ちえこ作「4294967296」。点を約43億個打つ途中の作品で、ライフワークとなっているそうです。
【下】内海聖史作「頭上の色彩」。これも点描写していますが、でき上がりの作品の表情は中根作品と全く異なります。

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また、脱衣場は営業していた時の状態をそのまま利用しての、楽しさ溢れる展示空間に。このアンバランスさが、妙なマッチングとなっていました。

【左】広野じん作「ふぉかっちゃぶ台」。イタリアのパン・フォカッチャに似たちゃぶ台が、開催期間中、老若男女を問わずはまった「玉入れゲーム」に。

【下左】ソフトクリームも本物そっくり(広野じん)
【下中】脱衣所の鏡の世界と、ガラス戸越しの風呂場の世界が融け合う(内海聖史)
【下右】銭湯ならではの舞台小道具も(中根ちえこ)

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◆会場2「弥生町長屋」 ~外界から遮断された特別な空間

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これもまた、昔の庶民の生活の場をそのまま展示場とした、弥生町長屋。昭和初期の建築ですが、建物を囲んでいる煉瓦の防火塀は大正以前のもの。塀の中に一歩入ると、外界から遮断されて、ここだけにしかない空気と空間が来場者を包みます。

まるで今回の会場となるために今まで存在していたかのような、不思議な気持ちに。そのまま4人の個性的な作品を、長屋の中で自然に受け入れることができるのです。

作家たちは自らの創造力を駆使し、日常生活の場を見事にアートの場に変えました。同じような部屋を使っても、それぞれが全く異なる空間を創出しています。

【上】飯田竜太作「phonograms―時 文字の浮遊―」。本を分解し、カバーと本体を分離して展示。縦の空間を利用した作品。
【下右】石川潤作「混沌とした日本に贈る鎮魂歌」。床と襖を作品に変えた力作。作品を踏んで見るという稀な経験をしました。

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【左】ささきようすけ作「なんか洋界」。古くなった家屋だからこそ生きる不思議な作品。この特異性で取材も多かったようです。
【右】佐竹真紀作「暮らしあと」など。映像作品としてドイツより参加。故郷の実家を中心に撮った写真を映像に。

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【左】丁寧に裁断された本(飯田竜太) 【中左】モノトーンの世界が美しい(石川潤)
【中右】「虫」があちらこちらに(ささきようすけ) 【右】押入れの壁に作品が上映される(佐竹真紀)


◆会場3「ギャラリー三日月」 ~第1回ハコトリで再生した建物が輝きを放つ

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ギャラリ-三日月は、前回のハコダテトリエンナーレのクリーニングによって、閉鎖されていた元質店が再生されたもの。その後現在の経営者の修復作業によって、市内でも有数のギャラリーとなりました。建物は部分によって建築時期が違いますが、今回2作家の展示を行った蔵は明治のものと言われています。

重厚な蔵は現代でも充分に機能を果たしており、堅固な造りは当時の函館の財力を窺わせます。その中で展示される作品は、光と影の織り成すコントラスト効果で、よりいっそう輝きを見せていました。

【左】コイズミタイチ作「夜明け前」など。木彫の持つ素朴さの中に、さりげないメッセージを織り交ぜた作品。個々の配置が絶妙でした。
【下】大島慶太郎作「A FOUND BEACH―omnibus―」。海をテーマにした映像作品。懐かしさと深い哀愁を感じさせる画像構成に、何度見ても新たな感慨を覚えました。

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また、土間スペースには散りばめられた写真の他に、手廻しオルガンも配置され、入場者の目をひいていました。

【左】紀 あさ企画「まちのみちの木のオルガン」。手廻しオルガン作家・谷目基さんに依頼した、紙芝居と一体になった作品。制作過程を追った写真を添えました。

【下左】ファンタジーに溢れた世界を演出した演奏会も、5日間にわたって開催(紀 あさ)
【下中】スクリーンに映し出された、水辺の風景(大島慶太郎)
【下右】像の周りを、光と影が移り変わる(コイズミタイチ)

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函館の空間とアートのコラボレーション、いかがでしたか。

本州より招聘されたある作家さんが、初めて会場に向かった時のことです。
ベイエリアを過ぎて弁天町などの「ディープウエスト」に近づくにつれ、目を輝かせました。
「ディープウエストには、函館にしかない、日常的だが趣の深い建物がある。凄い」と。
ディープウエストとは、西部地区(函館山の麓一帯)のうち、いわゆる観光地化されていない弁天町、弥生町、船見町あたり。
函館のリピーター観光客は、今「ディープウエスト」を歩くのが主流になっているとか。
作家という感性を研ぎ澄ませた人が痺れる街。そこは文化のルツボでもあるのではないでしょうか。

「トリエンナーレ」の名の通り、また3年後に幸福な出会いがありますように。

※記者J 2012/9/7~30取材、10/11公開

ハコダテトリエンナーレ公式ホームページはこちら