函館の街並みの「華」 和洋折衷住宅の魅力
「最も函館らしい建物は?」と聞かれれば、何といっても「上下和洋折衷住宅」を挙げたいと思います。
一階が和風、二階が洋風に設計された木造二階建ての店舗・住宅が「上下和洋折衷(擬洋風)」様式。開港とともに栄えた西部地区(函館山のふもと)には、函館独特の和洋折衷住宅が数多く見られます。伝統的な和風建築や、旧函館区公会堂・ハリストス正教会などの洋風建築ともとけこみ、特色ある街並みを形成しています。
その誕生の背景や、独特の魅力について、解説しましょう。
◆開港後の函館では、大工たちが洋風建築技術を習得
江戸末期、日本を代表する貿易港としていち早く世界に門戸を開いた函館。アメリカ、ロシア、イギリスなどの領事館が相次いで開設され、外国人が住み始めます。横浜や長崎と同様、最初は外国人居留地を設置しますが、函館は土地が狭かったため、実際は市街地に雑居状態。現在も元町で隣り合わせに建つ教会と寺院が、それを象徴しています。
外国人と一緒に住むことになった函館住民は、彼らと直接触れ合う中から、西洋の最先端の技術を多く吸収することができました。函館の大工たちは、外国人の指導のもとで、まったく経験のない教会や領事館などの洋風建築に取り組みます。その後、宣教師や外国人商人の洋風住宅建築も依頼され、並々ならぬ苦労を重ねながら技術を習得しました。
◆和洋折衷住宅は、外国への対等意識の表れ
◆ウラジオストックの街並みがモデル?!
◆函館特有、上下和洋折衷住宅の特色
和洋折衷とは、言うまでもなく、日本風と西洋風の様式を一緒に取り入れること。その中で函館の和洋折衷建物の特徴は、1階は下見板張り(ささら子下見板張も)の和風で格子戸を持ち、2階は下見板張りにアイボリー、ピンクや緑などのペンキ塗装、縦長の上げ下げ窓か両開き窓を持つ、「上下和洋折衷住宅」であることです。屋根の形態は日本古来のもので、主として和風瓦を使用、軒下に持送りと軒蛇腹を持ちます。さらに1階と2階との境には胴蛇腹があり、4隅の柱は柱型が出ているものが多く見られます。
建築主や大工たちは、持送りや軒・胴蛇腹、また窓の額縁の装飾で腕を競い合いました。ただ、当時の大工の洋風建築技術は決して高いものでなく、外観をいかに洋風に見せるかを主眼におき、建築構造的にはすべてが和風です。そのため、2階の洋風も実は外観のみで、内部は和風の畳敷き。函館の「いいふりこき(見栄っ張り)」を如実に示していると評されることもあります。
上下和洋折衷住宅の典型的スタイル
「函館の歴史と風土(函館の歴史的風土を守る会発行)」より転載
◆ベイエリア近くの、タイムスリップしたような街並み
ベイエリアの金森倉庫東側一帯は、明治から大正時代の興隆期に、函館繁栄の象徴である海産商の店舗が軒を連ねていた地域でした。当時の面影を多く残す「上下和洋折衷」の店舗・住宅が数軒残っており、雰囲気のある街並みを歩くと、まるでタイムスリップしたような感覚に(一番上の写真)。これらはレストラン、喫茶店、雑貨店、そば店など、多種多様の店舗として利用されています。その中の代表的な2軒を紹介しましょう。
●茶房旧茶屋亭
明治末期に建てられ、現在は喫茶店として利用されています。均等に置かれた上げ下げ式の窓とその周辺の装飾、イギリス式の下見板張り、西洋の古典建築に見られるアカンサス風の凝った装飾が施された軒下の持送り。1階の連なった窓にはステンドグラスがはめ込まれ、和風の中にも洋風を感じさせるなど、ほかにはないモダンな特色を持っています。
●和雑貨いろは
和洋折衷は表の1面だけという住宅が多い中、4面ともある数少ない建物。雑貨店として利用されていて、際立った存在感があります。
1階はささら子下見張り、開口部に格子戸、2階は下見板で縦長の上げ下げ窓。軒まわりに豪華な装飾をあえて施さず、三角形の破風に漆喰が塗られている質素さが特徴です。防火対策を考えて、建物左手に付けられた煉瓦製の防火壁「うだつ」も見事なものとなっています。
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函館を代表するハリストス正教会や旧函館区公会堂の設計家、そして和洋折衷の大工たちにしても、一度も海外渡航の経験がなく、もちろん洋風建築の現物を見たこともありませんでした。それでも、開港以来、洋風建築そして「和洋折衷様式」の町家等が数多く建てられたのが函館です。最先端の西洋文化を柔軟に受け入れた先人たち。その気質を色濃く残した街並みを、じっくり味わってみてください。
※文/箱館歴史散歩の会主宰・中尾仁彦<なかお とよひこ>、写真/編集室M 2011/4/18公開



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