地形と歴史から紐解く函館山の眺望スポット巡り(その2)
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歴史好きに
函館山は、通称「臥牛山(がぎゅうざん)」と呼ばれ、まるで一頭の牛が海辺にそっと寝そべったかのような、穏やかな姿が印象的です。
しかし、この優しい横顔は、あくまで函館の市街地側から見つめたときの「表の顔」。
ひとたび津軽海峡を挟んだ対岸や、北斗市、七飯町側へと回り込んでみますと、そこには地球のダイナミックな営みが剥き出しになった、全く異なる「裏の顔」が待ち受けています。
今回は、山頂からの夜景だけではもったいない、函館山が秘めた二面性のミステリーを、レンタカーで無理なく一筆書きで巡れる、駐車場完備(またはアクセス良好)のスポットとともに紐解いていきましょう。
地形と歴史から紐解く函館山の眺望スポット巡り(その1)はこちら
表の姿を北側から~絵師たちが愛した「鳥瞰」の視点~
ここからはレンタカーの進路を北へと変え、遥か高い場所から「空を飛ぶ鳥の目線」で、陸繋島(りくけいとう)のメカニズムを愛でてみましょう。
【きじひき高原】
JR新函館北斗駅からも近い、北斗市の広大な観光スポット「きじひき高原」。標高 500mを超えるパノラマ展望台(駐車場完備)から南を望むと、函館山の山容に加え、函館湾と津軽海峡に挟まれた、最短およそ 1 kmの市街地の「くびれ」の全貌を、遮るものなく一画面に収めることができます。
解説:西側から見る「正面の顔」
北側の高台は、かつて孤島だった函館山が、津軽海峡の強い海流が運んだ土砂(砂州)によって陸続きになった地形「陸繋島」のダイナミズムが最もよく分かる場所です。
西寄りに位置するきじひき高原からは、手前に広大な函館湾が大きく広がり、寝そべる牛の「頭(御殿山)」と正面から向き合うような、どっしりとした力強い山容を拝むことができます。
【知られざる市街地の「見えない起伏」のドラマ】
きじひき高原から見下ろす美しい市街地の「くびれ」は、一見すると海の砂が運ばれてできた平坦な砂の平地(砂州)に見えます。しかし、実際に街に降りて歩いてみると、実は驚くほどの高低差や見えない起伏に満ちています。
例えば、函館山麓のすぐ足元に佇む市電の「谷地頭(やちがしら)」電停付近。海抜はわずか1mほどですが、ここは山麓の斜面と、海からの砂が堆積してできた砂丘、そして立待岬側の高台に3方をぐるりと囲まれた、完璧な「すり鉢の底」のような低湿地です。
また、かつての大森浜沿いには、近代化の土木骨材として削り取られる前、ビル4〜8階建て相当の高さの「大森山砂丘」が天然の防壁としてそびえ立っていました。現在の住宅街にも、その巨大砂丘の境界にあたるゆるやかなうねりが、アスファルトの起伏として道路のそこかしこに残されています。
さらに、有名な「八幡坂」や「日和坂」。市電が走る「電車通り」は完全に平らですが、そこを一歩山側に越えた瞬間に急坂が始まります。この平坦と坂の境界線こそ、かつて砂州が形成される前の「太古の波打ち際(崖の下)」。
平らな砂州から一歩坂道に足を踏み入れた瞬間に足にかかるその重みこそが、火山島としての函館山の境界線に突入したという、身体で感じるダイナミックな高低差のドラマなのです。
【城岱牧場】
七飯町の山岳道路(城岱スカイライン)沿いに広がる「城岱(しろたい)牧場」(展望台、駐車場あり)。展望台からは函館平野を一望する大パノラマが広がり、きじひき高原と並ぶ北側からの貴重な函館山ビュースポットです。完全な山岳ドライブコースのため、レンタカーでのアクセスが必須となります。
解説:東側から見る「優美な曲線」
きじひき高原とは反対の東寄りに位置する城岱牧場からは、見え方が左右反転します。
左側の大森浜の弓状の海岸線(砂州)が美しく回り込み、そのまま立待岬側のなだらかなライン(牛のお尻側)へと吸い込まれていく、陸繋島ならではの優美なシルエットを俯瞰できるのがここならではの魅力です。江戸から明治にかけての『函館真景図』や、大正・昭和の天才絵地図作家・吉田初三郎が描いた美しい鳥瞰図の世界を、リアルな大パノラマとして体験できます
裏の姿を西側(対岸)から~青函の記憶と鉄路・火山肌の対比~
ここからは、お気に入りの音楽を流しながらレンタカーで函館湾をぐるりと回り込み、対岸の北斗市沿岸部へ。人を寄せ付けない荒々しい「裏の顔」の探索です。この広域周遊には、JR線、道南いさりび鉄道、市電、函館バスが乗り降り自由になるおトクなきっぷ『はこだて旅するパスポート(2日用:大人 4000円)』を活用しての旅もおすすめです。
【台風海難者慰霊碑(洞爺丸慰霊碑)】
七重浜の沿岸に佇む『台風海難者慰霊碑(洞爺丸慰霊碑)』(無料駐車場あり)。
昭和29年9月26日、日本海難史上最大の惨事となった青函連絡船「洞爺丸」の悲劇と、台風海難者を追悼するために建てられた慰霊碑です。目の前に広がる穏やかな函館湾の向こうに、まるで彼らを見守るように函館山が静かに横たわっています。
前編で紹介した「若松ふ頭の摩周丸」が、青函連絡船の紡いだ華やかなロマンという『光』であるならば、この七重浜の慰霊碑は、その安全の礎となった『影』の歴史。静かな波音の中で、かつての海峡の歴史に想いを馳せ、静かに手を合わせたい大切な場所です。
【道南いさりび鉄道の車窓 & 北斗星スクエア】
道南いさりび鉄道のローカル列車に揺られるのも最高の旅情です。
七重浜から上磯、そして茂辺地へと向かうの車窓からは、右手にどこまでも広がる津軽海峡と、その向こうにそびえる函館山が流れ去っていきます。夕暮れ時には、海に浮かぶイカ釣り漁船の漁火(いさりび)の温かな光が、きらめく市街地の灯りとともに波間に揺れ、言葉を失うほどの美しさです。
茂辺地(もへじ)駅で降りたなら、駅から徒歩5分の場所にある夢の宿泊施設『北斗星スクエア』で一泊してみてはいかがでしょうか。かつて上野と札幌の間を駆け抜けた憧れの青い寝台特急「北斗星」の客車2両が、当時の姿のまま保存され、なんと車内で宿泊が可能です。2段ベッドが並ぶ懐かしいBコンパートメントに抱かれて眠る時間は、まさに夜行列車そのもののノスタルジー。
無料駐車場も完備されているため、レンタカー旅でも安心してチェックインできます。
【茂辺地ふれあい漁港公園】
茂辺地漁港に併設された『茂辺地ふれあい漁港公園』(多目的広場、無料駐車場あり)。
港にそよぐ心地よい風を感じながら、いよいよ函館山の真の素顔、圧倒的な「裏の顔」と対峙します。市街地側からの丸みを帯びた緑豊かな姿とは一変し、かつて火山島であった頃の激しい営みを示す「柱状節理(ちゅうじょうせつり)」の荒々しい岩場が、剥き出しになっています。
解説:人を寄せ付けない難所「勘七落し」
山頂(御殿山)から右側の海へと一気に滑り落ちる、急峻な断崖絶壁。この過酷なエリアこそが、かつて山裏に存在した陸の孤島「寒川(さむかわ)集落」へと向かう人々を阻んだ、伝説の難所『勘七落し(かんしちおとし)』の現場です。あまりの険しさにその昔、勘七という男(あるいは馬)が滑落したと伝わるこの断崖。現在は落石の危険のため集落跡を含め立ち入りが固く禁止されていますが、人が近づけない場所だからこそ、函館山の自然の厳しさをそのまま残した野生的な美しさを放っています。
4. 旅のフィナーレ:海を渡り、海の恵みを胃袋で味わう
【大函航路(津軽海峡フェリー)】
陸の上から表と裏のドラマを堪能した旅の締めくくりは、実際に海へと漕ぎ出してみましょう。函館と青森県大間町を結ぶ、津軽海峡フェリーの「大函航路」です。
フェリーのデッキから遠ざかる函館山を見上げると、海上から仰ぎ見る「裏の顔」の圧倒的な立体感は、かつてこの山が独立した「火山島」であったという動かぬ証拠を、私たちに突きつけてくれます。
旅のご褒美に:大間まぐろきっぷ
津軽海峡を渡った先には、最高のグルメのご褒美が待っています。
函館国際観光コンベンション協会が企画・販売している着地型ツアー『大間まぐろきっぷ』。
フェリーの往復運賃と、大間町内での豪華な「マグロ御膳(またはお買い物券)」がセットになっており、函館から片道わずか90分。日帰りで本場・大間の極上マグロを驚くほどおトクに堪能できます。
まとめ
「はこだて旅するパスポート(2日用)」を手に、1日目はレンタカーやいさりび鉄道を組み合わせて道南の段丘や北斗の高原を巡り、茂辺地(北斗星スクエア)で寝台列車の夜を満喫。
2日目は、フェリーで海を渡り、函館山の荒々しい裏の顔を見上げながら大間へ向かい、極上のマグロをご褒美にする。
これは、1泊2日では到底味わいきれない、道南と津軽海峡を丸ごと愛する「2泊3日の完璧な極上周遊プラン」をシームレスに繋ぎます。
太古の海流が陸繋島を育み、人々が船で海を渡り、それ今、その歴史と恵みを五感と胃袋で味わい尽くす。
お馴染みの景色から一歩足を踏み出すだけで、道南と津軽海峡をめぐる世界は、こんなにも新しく、知的で、美味しいドラマに満ち溢れています。