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湯の川・熱帯植物園の「サル山温泉」物語

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湯の川温泉街の一角に、「サル山温泉」で話題の函館市熱帯植物園があります。知る人ぞ知る函館の人気スポットで、屋外の運動場をのびのびと走りまわるニホンザルたちは、2022年12月現在約50頭。冬の間は温泉が入れられ、お湯につかってのんびりくつろぐ姿が見られます。熱帯植物園のサル山について、園内放送でも流れている詳しい解説をお届けしましょう。食事や生活、温泉の入り方、面白芸など、サルたちの生態がよくわかる貴重な話がいっぱいです。 
サル山温泉 函館市熱帯植物園(スポット情報)
 
◆サル山ができたのは、開園当初の50年以上前
 函館市熱帯植物園が完成したのは、昭和45年(1970年)の7月でした。その翌年の10月、お客様をもっと楽しませようと、このサル山が造られました。そして、本州から20頭のニホンザルが連れてこられたのが、現在のサル山のスタートでした。そこには、函太郎(かんたろう)というボスや奥さんの巴(ともえ)さん、後のボスとなる函助(かんすけ)がいました。現在ここにいるサルたちは、そのサルたちの子孫です。
まずは、このサル山のボスの話からしましょう。サル山が造られた頃のボスは「函太郎」でした。函太郎は昭和46~49年の4年間、ボスとしてサル山を支配しました。函太郎は、当時人間の年齢でいえば18歳の巴さんと結婚しました。そして、何頭かの子ザルに恵まれました。
函太郎が4年後に死んだ後、ボスになったのは「函助」でした。函助は先代の函太郎と同様、喧嘩の仲裁、子ザルのお世話、めすの毛繕い等をしてあげて、多くのサルの信頼を得ていました。餌を独り占めすることなく、皆が食べ終わるのをじっと待っているような我慢強いサルでした。
函助は昭和49年~平成11年の、実に25年間もサル山のボスとして君臨、平成11年2月16日に高齢のために旅立ちました。推定35歳、人間の年齢で言えば約100歳。威張り散らさず、面倒見の良さで仲間の信頼を築き、ボスザルのまま生涯を終えたそうです。函助は水を怖がり、名物の温泉にはついに入りませんでしたが、飼育員が不用意に頭等に触れると猛然と怒るなど、威厳のあるサルだったと言われています。函助が死んだ日はサル山は静まり返り、ボスの死を悼んだそうです。
 
◆メスザルのボス、巴さんの個性豊かな子どもたち 
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一方、メスザルのボスは何と言っても函太郎の奥さんの巴さんで、昭和42年に横浜で生まれ、平成18年12月、人間で言えば120歳で死亡するまでの36年間、サル山の姐御として君臨しました。巴さんも後年は「巴ばあさん」と呼ばれて親しまれました。
巴ばあさんの娘は、通称「娘」と呼ばれていましたが、体格も顔も巴ばあさんにそっくりなので、「二代目巴ばあさん」と呼ぶ人もいたようです。メスの中で一番体格がよく太っていました。気性が激しい上にずるさもあり、他のサルが手にした餌までも取って食べてしまうほど食い意地が張っていました。他のオスも、恐れてちょっかいも出しません。餌を見せても絶対人間のそばに寄って来ない等、警戒心も強い姐御ザルでしたが、平成27年11月に老衰で旅立ちました。
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巴ばあさんには、ほかに強い三兄弟の子どもがいました。長男は無類の暴れん坊で、若い時に他のサルを追い掛け回しているうちにコンクリートの壁で頭を打ち、事故死してしまいました。
一際体が大きくて力の強かった次男坊は、腕力ナンバーワンで毛並みも美しい。我先に餌を取るし、身内以外の喧嘩に対しては知らん顔をしました。若い時はけっこう乱暴者でしたが、歳をとって少しおとなしくなったと思っていたら、平成23年11月に衰弱死してしまいました。人間なら中年という年齢です。他のサルたちに対して思いやりがなく、自分勝手な行動をとるので仲間の信頼がなく、ボスにはなりきれませんでした。温泉が大好きで、朝から晩まで入っていました。
三男坊は、平成22年3月に原因不明の病死をしてしまいました。死ぬ数日前から食欲もなく、体調を崩していたようです。体重は15キロ以上もある大きなサルでしたが、優しく気性の良いサルで、その死は皆さんから惜しまれました。
 
◆サルたちの食事はバラエティ満点 
食事は一日2回です。サル山には高い見張り台があって、必ず4~5頭の見張り役のサルがいて、餌を入れたバケツを持った飼育員を発見すると、キャッキャッと見張り台の上で跳び跳ねて騒ぎます。すると、下にいるサルたちも一斉に「ワーッ」と声を出して叫びます。
朝食はジャガイモとリンゴ、それに栄養食品のモンキービットが中心です。パンや米麺があれば与えます。午後の食事は、パンを中心に与えています。季節によっても食事の内容が変わり、夏にはニンジン、秋にはカボチャ等が多くなります。
リンゴやジャガイモ等皮がある食べ物は、最初、前歯できれいに皮をむいて食べます。やがてお腹がすくと、先にむいた皮も食べます。翌朝まで皮が残っている場合は、与え過ぎということが分かります。
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パイナップルやバナナ等は大好物で、皮まで食べてしまいます。ゴボウを与えた時、水場で洗ってから食べました。きれい好きな面もあるようです。絶対食べないのは、キノコです。においがいやなのでしょうか。
大根やネギなど辛味のある物も好みません。辛党ではないようです。食パンより、甘い味のついた菓子パンを大変好みます。サルはどうやら甘党のようです。
強いサルは、食べ物を両手に持ちながら自分の前にも確保します。強いサルの餌を、他のサルは絶対に横取りしません。後の仕返しが怖いからです。弱いサルが偶然にも美味しい餌を手にすることがあります。それを見つけた強いサルとその仲間は、走って弱いサルのそばに来ます。すると、弱いサルはせっかく手にした美味しい餌を放り出して逃げてしまい、強いサルは悠々と美味しい餌を横取りして食べます。そういうことが日常繰り返されるので、強いサルは体格も良くなり毛並みも美しくなります。
しかし、最後にはお腹が大きくせり出して、メタボのサルになってしまいます。
 
◆餌を求めて、芸を覚えたサルたちも
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お客さんがサルに餌を投げ与えようとすると、両手をパチパチさせて「頂戴」をするメスザルが平成20年頃に現れました。その仕草が可愛らしかったので、お客さんはそのサルに餌を多く投げ与え、それを見ていた近くのサルも真似をして手をパチパチするようになりました。文字通り猿真似です。今では3頭程のサルがパチパチをします。中には、片手を体に打ちつけて「頂戴」するサルもいます。 
最近、餌欲しさに後ろ向きに1回転宙返りする、つまりバク転をするサルが現れました。早く仲間が「猿真似」して、バク転ができるサルが増えると面白いですね。
 
◆サルの温泉は12月からゴールデンウィークいっぱいまで 
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ニホンザルの北限は青森県だと言われていて、元々暖かい地方で暮らしていました。今は札幌をはじめ、道内のあちこちの動物園で飼育されていますが、北海道の自然界には存在しないサルだったのです。
このあたりでは幸い温泉が湧き出していたので、サル山に温泉浴槽を作りました。今は12~4月、特別のお情けで5月のゴールデンウイークまで延長しています。函館の温泉に浸かっているサルは全国的に有名になりました。
サルは元々、水は嫌いです。しかし、ここの植物園のように温泉施設があると、様子はがらりと変わります。サルたちは温泉のよさを知っていて、12月になるのを楽しみに待っています。温泉が浴槽に注がれると、湯に手を入れて湯加減をみます。湯温30度台ではまだぬるいらしくて入りません。
40度(人間でいえば中温)以上になると、やっと入ります。ここサル山の温泉は、41~42度に保っています。 
サルも人間と同様、風呂好きと風呂嫌いがあるようで、嫌いなサルは決して温泉に入りません。反対に風呂好きなサルは、朝から晩まで出たり入ったりを繰り返しています。温泉好きは、全体の8割です。12月に初めてサルたちが入ると、お湯は茶色に変色します。それだけ体が汚れていたのでしょう。温泉に入ると体がきれいになるほか、効能によれば神経痛や皮膚病にも効果があるというので、健康維持に貢献していると言えます。
反対に、温泉に入り過ぎると皮膚が夏到来と錯覚を起こして、冬毛が抜けてしまうというリスクがあります。寒い冬の間に冬毛がなくなって、裸同然になるサルも出てきて、お客さんは「病気なのではないか」と心配しますが、温泉をやめるとやがて元どおりに毛が生えてきます。温泉から上がるとサルたちは体を寄せ合って体を温め、毛を乾かします。しかし、毛がなくなってしまったサルは寒さに耐え切れずに、夜間でもこっそり温泉につかって体を温めています。毛が抜けているサルほど、温泉によく入っていたということになります。
 
◆夜は地下の生活房で、ひとかたまりになって睡眠
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 暗くなると、サルたちは地下の生活房に入ります。そこは広いコンクリート製の大広間になっていて、地上付近に鉄格子付きの窓が2個あるだけです。そこで親戚同士が集まって、寒い時は互いに体を寄せ合い、ひとかたまりになって眠ります。強いサルの周りを家来のサルが取り囲みますから、強いサルは全然寒さ知らずのようです。
生活房には暖房設備がありませんから、温泉から上がったサルたちは互いに身を寄せ合って毛を乾かすようです。朝、生活房の部屋で食事をもらうと、口の中に食べ物をいっぱい詰め込んで、すぐ温泉めがけて走っていくサルもいます。
サル山にはトイレもありません。日中は外の遊び場で、夜間は生活房の中で用を足します。サルは人間のようにトイレを1箇所に決めるという本能はないらしく、生活房でも外の遊び場でも、所かまわずどこへでも排泄します。中には温泉の中でもしてしまうサルがいて、飼育員を困らせてしまいます。
 
◆サルの喧嘩、サルの不幸
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サルは本来、ボスを中心とした母系社会です。しっかりしたボスがいれば、喧嘩の仲裁をして、怪我をするサルや死に至るサルはいないはずです。しかし、時には咬まれた傷跡を残して死んでいるサルもいます。現在は大体3グループに別れていますが、グループ同士の仲は決して良好とはいえません。上下関係もあります。気にくわないことがあるとすぐに喧嘩になります。いち早く逃げてしまえば怪我をすることはありませんが、逃げ遅れると大変なことになる場合もあります。
外傷がないのに死んでいるサルもいます。そういうサルは冬に多いので、寒さに耐え切れなかったのか、または風邪をひいたのか。もちろん、老衰ということもあります。様々な原因が考えられるので、獣医に報告して死因を調査・判定し、その後ペット霊園で火葬にして共同墓地に埋葬します。
 
◆毎日の世話は、清掃と食事の準備
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毎朝、2名の飼育員が生活房と外の遊び場の清掃をします。消防自動車と同じホースを使用して、まず排泄物を勢いよく洗い流します。その後、床や壁を消毒して清潔にします。
清掃活動が終わると、すぐ朝の食事です。午前9時頃、生活房の中でジャガイモやモンキービット等を与えます。午後からの食事は、冬は4時ごろにパンや野菜等を遊び場で与えます。夕方には、翌朝の餌の準備をします。
サルは牙を研ぐために木をよくかじります。そのためにサル山の遊び場には、常時2本の遊び木を立てています。サルたちは、遊び木の地上30~40センチ付近を好んでかじります。同じ所を順番に次々とかじりますから、直径15センチ程の遊び木は約1~2カ月で倒されてしまいます。飼育員は、土台の筒に合わせて樹木の根元を削り、新しい遊び木を立てる作業を行っています。
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サルたちがお腹をすかせては可愛そうだと、多くの方の善意が寄せられています。じゃがいも、にんじん、かぼちゃ、パン、りんごなど。たくさんの皆さまのご協力によって、豊富な食事とともにサルたちの健康が維持されており、今日も元気いっぱい過ごしています。
 サル山の目の前で、個性豊かなサルたちを観察してみませんか。ぜひ一度会いにお越しください。
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函館市熱帯植物園 ⇒スポット紹介
函館市湯川町3-1-15 0138-57-7833
・市電「湯の川」電停から徒歩15分
・JR函館駅より函館バス95系統か96系統で16分、「熱帯植物園前」バス停から徒歩2分
 
開園時間
(11~3月)9時30分~16時30分 ※12/29~1/1は休園
(4~10月)9時30分~18時
入園料 
一般300円、小中学生100円
 
※原稿協力/函館市熱帯植物園
2011/12/22公開

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